20MnB4オイルパイプナットのクレームから始まる話
「このロットは打ちにくい。別のものを試してみよう。」
冷間鍛造で引っ掻き傷が発生すると、現場ではまず材料を変えることを考えがちです。しかし、材料を変えても問題が解決しない場合、次はどうすればよいのでしょうか。
ある顧客先での調査では、20MnB4製の六角形オイルパイプナットに引っ掻き傷が見られ、設備からは異音も聞こえていました。設備や金型はそのままに、顧客は35番鋼で試し生産を行いました。
音は少し小さくなりましたが、実際に取り出した製品には依然としてすべて引っ掻き傷が確認されました。
この結果だけではどちらが正しいか断定できませんが、材料を単に何度も変えるだけでは解決しないという教訓を与えます。
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靴がきついとき、靴下を替えればそれで済むでしょうか?
靴の中のある部分が足に当たって痛い場合、靴下を替えると歩きやすくなるかもしれませんが、擦れて痛む箇所そのものがなくなるわけではありません。
冷間鍛造における引っ掻き傷も、しばしば同じ理屈が当てはまります。
各工程のサンプルを取り出して比較検討したところ、絞り加工時の金型とのクリアランス不足が判明しました。顧客側でも再測定を行い、この状況を確認しています。
分かりやすく言えば、材料が特定の部位を通過する際に本来スムーズに通れるはずなのに、余計な圧迫や擦れが生じているのです。表面の潤滑保護層が損傷すると、その後の摩擦によって表面に傷がつき、引っ掻き傷となってしまいます。
したがって、皮膜が厚ければ必ずしも安全とは限りません。靴がすでにきついのに、靴下を替えるだけで解決できるわけではないのと同じです。
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油があるからといって、潤滑が十分であるとは限りません
現場にはもう一つ注目すべき点があります。機械の作動油はかなり粘度が高く、作業員によると長い間交換されていないとのことでした。また、製品の六角面には黒ずみも見られました。
作動油の粘度が増す原因は一つではなく、「長期間交換していない」という理由だけでは説明できません。使用時間だけでなく、油中にどのような不純物が混入しているか、またそれらの除去が適切に行われているかどうかも重要です。
加工過程では、切りくずや表面被膜の残留物などの不純物が作動油に混入することがあります。効果的なろ過が行われていない場合、金属粒子が油とともに循環し、金型とワークの間に再び入り込んで、表面の擦り傷や金型の摩耗を悪化させる可能性があります。
例えるなら、レンズ拭き用の布に砂粒が混じっていると、本来は表面を保護するはずが、逆に拭けば拭くほど曇ってしまうようなものです。
つまり、「油があること」と「潤滑が有効であること」は別問題です。作動油の状態とろ過性能の両方を確認する必要があります。今回のケースで観察された粘度の増加や黒ずみは、さらなる調査の手がかりとなりますが、それが即座に切りくずによる汚染を示すものではありません。
加工上の適合性が不十分で潤滑条件にも問題がある場合、材料の皮膜をさらに厚くするだけでは全ての問題を解決できません。
お客様が必要としているのは、「また別の材料を試してみる」だけではありません
今回の調査では、絞り加工時のクリアランス不足を引っ掻き傷の一因として特定し、加工適合性および潤滑に関する改善提案を行いました。ただし、改善効果については引き続き生産ラインでの確認が必要です。
お客様にとっての損失は、不良品数だけに留まりません。停止時間や材料の入れ替え、そして方向性のない試行錯誤の繰り返しにも大きな影響があります。
私たちは材料を供給するだけでなく、納入後の材料がなぜ良好に機能するのか、あるいはなぜうまくいかないのかにも関心を持っています。材料自体の問題であれば正面から対応し、加工上の適合性に関わる問題については現場と連携して分析します。漠然と「材料に問題はありません」と言うよりも、次にどこを確認すべきかをお伝えすることの方が、お客様にとってより価値のある支援となります。
もし、あなたも冷間鍛造で引っ掻き傷が発生し、材料を変えても改善されなかったり、同じ材料でも品質が安定しないといったお悩みがあれば、まずは安易に原因を決めつけないでください。異常品の写真、材料の材種名、問題が発生した工程を私たちにご連絡いただければ、まず調査の方向性をご案内し、必要に応じてサンプルを基にさらに詳細な分析を行います。
